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メイ.サートン著 武田尚子訳『今かくあれども』みすず書房1995年 サートンは若いときから老年について考え続けてきた。それは彼女が一生敬愛したベルギーの詩人、全盲になっても強靭に典雅に生きぬいたジヤン.ドミニクや、シェイデイ.ヒル校のさっそうたる不死鳥の老年に強く印象づけられていたためだろう。 この作品でサートンは、名もなく年老いた人たちの、老人ホームでの最晩年を描き、人の尊厳を顧慮する余裕もないホームと、家族の暖かさからほど遠い晩年を送る人々の双方を支配する貧しさ、そこからくるあらゆる人間的なものの剥奪を憤る。「年をとるのはすばらしいことです」と語って、かつては聴衆をわかせたサートンの老年へのロマンチックなあこがれは、老境という異国を旅する人の、新しい現実への挑戦に変わる。静かな内省にみちたサートン作品の中では異色の、きわめて劇的な小説として成功した珠玉の一篇である。